(C)ニナガワカンパニー

(C)ニナガワカンパニー のクレジットは株式会社『ニナガワカンパニー』の承認マークです。
株式会社『ニナガワカンパニー』は故・蜷川幸雄さんが手がけられた蜷川作品の、上演、演劇特有の脚本、美術等の著作権管理を行う会社です。
代表は妻の宏子さんが務められています。
この度、演劇集団 別世界カンパニーは株式会社『ニナガワカンパニー』の特別な許可を受け、
【―蜷川幸雄氏に貰った言ノ葉集ー】を掲載させて頂く事になりました。
これは演出家・伊木輔が蜷川カンパニーダッシュ時代に、主にベニサン・ピット、シアターコクーン、彩の国さいたま劇場の
稽古場や劇場で書き記した、生の蜷川幸雄さんのダメ出しをまとめたものです。
かなりの量がありますので随時更新いたします。
この貴重な記録が、ご覧になられている皆様のお役に立ちましたら幸いでございます。
この場を借りまして妻の宏子さん、次女の麻美さんに心よりお礼を申し上げます。

―蜷川幸雄氏に貰った言ノ葉集ー

「」は台詞、■は伊木の補足 『』は蜷川さんのダメ出し


Prologue

「弱法師」
作:三島由紀夫 演出:蜷川幸雄
本番:2000年10月27日(金)~11月5日(日)埼玉・彩の国さいたま芸術劇場
○稽古日:2000年10月21日埼玉・彩の国さいたま芸術劇場内場当たり中、主演・藤原竜也への稽古


一言目 『スタッフOK、みんなOK、竜也ボロボロ』
三島由紀夫→年齢を凄く気にする。彼にとって終末の光景は快楽で悦楽←出てない。
『りきみすぎてリアルな演技になってしまっている』
『イメージが分かっていない、分かっていても自分に強制してしまっているよ!』
『最高の緊張』がない。全体的に恐怖になってはいけない。
『終末の光景!最高の時!最高にエロティック!官能の表現!死を通したエロス!同じ間になるな!』
「みんな行きましたね」『悠々と』「上手く追っ払ってやった」『得意げに、桜間さん(高橋惠子)にだけ態度が違うように!』ぶりっ子笑い(自分は綺麗だ)「いいですか!」『強く!』「空は火の子でいっぱい」『嬉しいんだよ!』「影絵」『水に映ってんだよ!』「世界はー」『地獄の中での静けさを出す為に無声音!無声音!』『竜也情景だよ!』「ごらん!」『距離をだせ』「この世の終わりを」『優しく』
『イメージを上手くつかんだ時の呼吸をつかんで覚えておけ!』


■この日の稽古は厳しかった。途中、木のイメージが出来ておらず稽古を中断して外まで見に行かせてた。
かなりのアジテーションだったが本番、全て出来ていて素晴らしい公演だった。



■※エチュード
蜷川カンパニーではレッスン等なく(当時)自分達で進んで『エチュード』と言われる戯曲のワンシーンを稽古し、本拠地ベニサン・ピット稽古場で蜷川さんに見せていた。
劇作の神髄を知る蜷川さんの駄目出しを、ここに記そうと思う。


○エチュード1『ハムレット』冒頭のシーン 作:W.シェイクスピア
行動での理由作りが大切!
台詞の概念「誰だ!」『お前は何者だ!ハムレットは何者だ!一体何者だ!って意味なんだよ』
中世から続く文化的恐怖心。一概にそう言えないが、セリフを呟くと主役になってしまう。
「誰だ!」『叫べ!台詞が間抜けになるな!短く切り過ぎるな!』
『なぜ→なぜ→なぜ!音を上げてけ!フレーズの取り方!強調のリズムで加速度を作れ!
異変!異変!ハムレットの父の亡霊が出てきたらすでに異変なんだよぉ!』
『シチュエーションを成り立たせてやれ!徹底性がないよ!見張りなのだから、何処から何が来てもいいように対処!カッコつけるな!リアルにやれ!結構難しいんだぞ!』
「12時を打つのを」『一回周りを気にして』「そこに居るのはホレーショーか」この台詞を出すにはホレーショーは元よりマーセラスからも離れる事。ホレーショーは全然信じていないのに来た←Keypoint!
『どんな作品でも最初は忠実に作り行動の裏付けを大切に。数々の台詞の音の音色をしっかり。実物や、他の芝居と自分達がやろうとしているものの比較、差を見据える事。
演出・役者の本の読み込みが薄いと関係ない事をやりたがるから注意しろ。』


■最初の「誰だ!名を名乗れ!答えろ!」のセリフだけで一時間かかった気がする。
シェイクスピアだけでなく全てのテクストは戯曲読解からと厳しく叩きこまれた日だった。



○エチュード2『喜びと孤独の衝動』 作:ジョン・パトリック・シャンリー
『俺メルヘン嫌いなんだよ』
『アメリカの劇作家なので裸足では演じてはいけない。台本を超えるオリジナリティーがない。どんな登場人物でも、この登場人物ならどうするかを細かく考える事。
また、どういう演技を選択すればシチュエーションを選択する事が出来るのか。手の癖が気になるならポケットに手を入れてしまえ!体の開き方、向きによって同感や反抗等を表すんだよ!
語尾の扱い方!ビシッと止める強調。遠くを見るときテクニック!ちょっとカーブして見ると効果的にいくよ。』『態度は正直に表現するのではなくて逆にするとより深みが出る』
オーディションの時は短い間にシチュエーションを伝えるのが大事。登場人物二人の価値観の違いを出す。←Keypoint!
『もし俺が演出するんだったら、岸部は上手か下手どちらかを出っ張らせて演技を協調させるな』
20170812_171126.jpg

■この日は台詞の音色よりもビジュアルに対するダメが多かった。
かつて新劇がシェイクスピアを演じる時理由もなく縦横に動く事を非常に懸念され、
相当細かく動作のダメ出しをしてくれた。                    クリックで拡大→



○エチュード3『女中たち』 作:ジャン・ジュネ
『読むぶんには面白いがテクストが悪い。ブルジョア人の観点が俺たち日本人じゃ出しにくい。衣装だけじゃダメ。日本人はあらかた失敗するよ。もっと観念的なもんじゃねーやつやれよ、もっと自分の感性に合っているもの!こういう作品は行ける所、たどり着く所が決まっちゃってるんだよ』
ブルジョア人(中産階級の事であり、特に17 - 19世紀においては革命の主体になりうるほどの数と広がりを持つ裕福な階層)とプロレタリア人(賃金労働者のことをいい、そもそもは資本主義の経営者に搾取されて苦しい生活をおくる労働者)は難しい。日本人には判らないヨーロッパの歴史、風土、文化的価値観がある。
更にジュネはやってきた事の凄さがある。←同性愛者、うそつき、外国人部隊、刑務所にいた(この時、泥棒日記を書いた)、ジュネは台詞が綺麗。
『これは日本に置き換えられない。俺がやったNINAGAWAマクベスは成功した。見た目(ビジュアル)も感覚も日本に置き換えられた。そうする事で日本人が本当の意味で納得できる。台詞については変えない。最近は日本にも西洋文化が入ってきているから対処できる。』


■無茶苦茶な生活をしてきたジュネだが、ジャン・コクトーに認められてからというもの次々と名作を出版、認められ、最後には政治活動までした。
この日はさすが世界で戦っていらっしゃるな、と、改めて尊敬した。



○エチュード4『おーい助けてくれ』 作:ウィリアム・サローヤン
「おーい助けてくれ」『諦めてたんだよ!』
『戯曲全体で言えば、世界を檻、厚い壁で囲まれた若者たちの物語なんだよ!』
「なぁに」『この台詞は話のきっかけを作りたいんだ!』
「ケティかい?」『リフレインしている間に助かる方法を考えているんだ。統一してるのは助かりたい!』『エミリーは、二重性をどうやって出すか!その為には内容を読みこなすんだよ!』『イメージイメージ!それを肉体で表現!』『口で言っている事と本音は違うだろ!』
「おーい」ずっと座っている→諦める→スプーンを鳴らす『この行動は諦めないからやってるのぉ』「おーーーーーーい!」『本のレベルはもっと高いだろ!最後だけ大きく叫ぶんだよ!魂の叫び!世界中の孤独を背負い救済を求める悲痛の叫びを出さなきゃ!』
『のっけの動作!のっけの動作!寝っ転がってんのか、座ってんのか!中途半端じゃ駄目駄目!もう一回!(素早く手を叩く)』『もっともっとデリケートに!反応を伺いながら!』「なぁに」『ほらこういうとこはおいしい所、見せ所だよぉ!』
『本を読み取る能力や表現力は自分で見つけるんだよ!考えろ!演技をして考えるんだよ!世の中にそういう人がいるのかとか!自分の中にそれがあるかないかをさぁ!』


■蜷川さんは演出する俳優や戯曲のレベルに身体を合わせる為、人差し指と中指を小刻みに動かしテンションを上げていた。
故・如月小春さんも本読み時、ペンで台詞の音を取っていた。どちらのクセもいつの間にか私に写ってしまった。
『全世界に向かって大きく魂で叫ぶんだよ!』机を蹴飛ばして激高しながらも言ってくれたあの言葉は、今も昨日の事の様に心に刻まれている。





言ノ葉集は、随時更新していきます。